2020年春。
コロナ禍で仕事は減り、会いたい人に会うこともままならず、
大好きな旅に出ることもできず…
先の見えない不安の中で、その頃わたしは“腐って”ました。
かれこれ13年、九州を拠点に「編集」の仕事をしています。
見て、触れて、話を聞いて、ぞくっと心が動く瞬間を捉えてきました。
クライアントさんに対しては“明日のための”ことばを紡いできました。
そんな風にずっと忙しなく動いてきた指が、ピタッと止まってしまった。
クライアントワークに夢中になりすぎるあまり、
自分の作品をつくる機会から遠ざかっていたため(怠惰ともいえます)、
「書きたいもの(書けるもの)が一切なくなった」
「つくるもの(つくれるもの)が何もなくなった」
そんな風に思うようにもなっていました。
当時を振り返ってみても、
手持ちの荷物をすべて下ろし、ある意味“身軽”になったのは
フリーランスになって以来初めてのことだったと思います。
それでも、生活はつづく。
絶えず何かを生み出してきた指が、SNSで情報を漁る指になっても。
不要不急の外出を控えるよう自粛が呼びかけられ、
何ともモヤモヤと葛藤が止まらない中で目にしたのが、
故郷の宮崎で、グラフィックデザイン事務所「Oeuflab(ウフラボ)」を
主宰するデザイナーの友人・平野由記さんのこんな投稿でした。
2020年4月現在、コロナの影響で不要不急の外出を自粛した生活が続いています。
こうした生活は長期戦になるかもしれません。気づいたら、情報を追いすぎて疲れていたり、何も手につかなかったりする時はないでしょうか。
そんな時、何かを作ったり、自分で考える時間は、家での時間を豊かにしてくれます。
そんな時間を意識して持てる様に「見せる場」や「締め切り」というのは後押ししてくれます。
だから、この「SOMEDAY magazine」を企画しました。
みんなの作品で、一冊の雑誌を作りませんか?
参加はだれでもOK。作品もB5サイズなら何でもOK
(著作権の侵害や人を傷つけるもの、倫理に反するものはNGです)。
テーマもありません。セレクトもしません。届いたものは全て掲載します。
(Sometimes… FaceBookより)
宮崎市宮田町にあるデザイン事務所「ウフラボ」は、時々「Sometimes…」という小さなまちのギャラリーに姿を変えます。
「Sometimes…」は2018年11月にスタートし、これまでに5回の展示イベントを開催。
SNSで世界中の作品や作家と出会える時代において、「本物の作品を見ること」「作家本人と会えること」を大事にしてきましたが、コロナ禍で密集・密室・密接を避けなければならず、新しい計画が立てられない状態になっているとのことでした。
そこで平野さんが、「“ネットで閲覧できる作品発表の場”をともにつくりませんか?」とフォロワーさん&ファンを含む多くの人に投げかけたのです。
2020年4月23日の夜のことでした。
投稿を読みすすめてみると、このギャラリー雑誌は
◼︎参加資格は誰でもOK
◼︎掲載作品も何でもOK
◼︎サイズはB 5、ページ数は未定!
作品も、絵、文章、写真、グラフィック…とにかく作品はなんでもよくて、
参加してくれる方の分だけページ数は増えるということ。
…そんな雑誌、聞いたことない!
「ポートフォリオ」ではなく、純粋な「作品発表」としての
個性を大事にするために生まれる「ギャラリー雑誌」。
あの春、同じ世界線でこの投稿に触れた作家の作品が、
オンライン上でひとつの雑誌にまとまる。
久しぶりに、胸の深いところがぽっと熱くなるのを感じました。
こんな状況だから、自分の家でつくろう。
迷うことなく「参加したい!」と、彼女にmessengerをおくりました。
4月23日にスタートし、7月1日の発行まで制作期間はたったの2カ月。
プロ・アマ問わず、この実験的な試みを面白がる作家が次々に参加表明をし、
119名の作家による118作品が大集合。
オールフルカラー全180Pのオンラインギャラリー雑誌が
ざっばあ〜ん、とネットの大海原へ放たれたのです。
福永:いや〜、ほんととんでもないスケジュール進行だったよね。
まずは、参加させてもらってありがとう! というお礼とともに…いまの心境はどんな感じ?
平野さん:ほんと駆け抜けたね〜! 参加してくれてありがとうね!
とはいえ、終わったあと、わたしが息切れしてしまったよ(笑)。
福永:そりゃ、そーだ(笑)。
平野さん:でも拡散してくれる作家さんが多くって、いろんな方が見てくださってるみたい。
福永:公開後、感情の変化ってあった?
平野さん:実はもともとこのプロジェクトは、“公開の手前”を目的としていたんだよね。
作家さんたちが「つくる時間」を意識的にもうけることが目的で。
福永:なるほどね! というと、公開後の周囲の反応というより、
参加された作家さんたちの取り組みや、それぞれのこころの変化とかが大事だったってことだ。
平野さん:これだけ人数がいらっしゃるから、制作中もトラブルとか発生しちゃうかな〜とすこし不安だったんだけど、ほとんどそういうことはなくて。
むしろ、「参加させてくれてありがとう」とか「完成品をネットで見て感動しました」という感想をくださる方が多くて、それがとってもうれしかったな。
福永:参加者の内訳を見てみると、宮崎在住の方が59名、東京在住が15名、
福岡が13名、海外が3名、その他が29名…ほとんどが九州の方なんだね。
平野さん:そう。最初は40人くらい集まればいいのかなと思ってたんだけど…(笑)。
福永:約5倍やん。
平野さん:参加締め切り日の3日前後で、一気に集まった感じだね。
福永:すごいなあ。
今回の目的って、やっぱり作家さんの「つくる時間」を確保することにあったわけだよね?ステイホームの時間が、手を動かす時間になれば…みたいな?
平野さん:この企画、思いついた日に告知したんよ(笑)。
Yahoo!ニュースとかtwitterをよくみるんだけど、あの頃、ほんとまいっちゃってて。
いろんな人の意見とか世界情勢の変化を追うだけで1日が終わるような日々で。
これは、精神衛生上に良くないなと思ったのね。
福永:うんうん。
平野さん:仕事をしている時間のほうがまだ元気というか。でも実際、制作の仕事も減ってきているし、みんなでネット見て落ち込むくらいだったら、意識的に“ものづくりの時間”をつくりたいと思ったんだよね。
福永:とはいえ、なかなかみんな作品づくりって、しないよね(笑)。わたしもしかり。
「仕事に追われてて〜」ってつい言っちゃうよ(笑)。
かといって、実質あの頃時間があっても、そっち(私的な制作)にまったく意識が向かなかった。
平野さん:そうそう。やっぱり締め切りとかゴールがないとやりださないよなと。
コロナのことは一旦置いといて、自分と似た環境のひとたちとものをつくりたいなと思った。
でも、ほとんど自分のためっていう感じでもあるんだよね。
福永:いつ収束するのか、これからどうなるのか、まったく先が見えなかったからね。
平野さん:だから、とにかくスピーディーにつくることを意識したの。
本の質うんぬんは置いといて、とにかくいろんな人と「同じ日」に向かってものをつくることを大事にしたかった。だから条件も一切なしにした。
福永:わたしも雑誌編集をしていたからわかるんだけど、
ある程度、季節性とかテーマを掲げて特集を組んだり、作家さんに「こういうテイストで…」と作風の依頼をするから、「なんでもOK」というスタンスにもとても驚いた(笑)。
平野さん:実際ギャラリー「Sometimes…」で展示ができないのであれば
場所を移して、発表の場をつくろうというのも大きな目的のひとつかな。
“クリエイターズファイル”ではなく、“ギャラリーの本”という位置付けというか。
作家さんを紹介したいというより、作品を味わってもらうための誌面構成にこだわったんだよね。
福永:うんうん。
平野さん:実はやっぱり何人かの作家さんに、
「作品数を減らしてもらえないか」とお願いしたりはしたんだ。
福永:何でもありとはいえ、作品数が多いコラージュだと、クリエイターズファイルになってしまうということだよね…。
平野さん:作品が増えれば増えるほど「紹介」になってしまうから、
すこし絞りませんか? と提案したりした。あとは著作権の問題とかね。
福永:あくまで、“自分の作品”であることにこだわったということだね。
ちなみに、このページネーション(ページ順)はどうやって決めていったの?
平野さん:ダークな感じと朗らかな感じのタッチの作品が並ぶとバランスが
悪かったりするのと、作家さんはプロ・アマ問わず多くの方が参加してもらったから、そのあたりのバランスは意識したかな。
特に単ページの方は、作品の雰囲気が共存できるものを選んでいったよ。
福永:九州の学生さんから世界で活躍するイラストレーターさんまで、ネット雑誌というひとつの“場”に共存しちゃってるところがユニークだなあ…と思うんだよね。だってこれがギャラリーだったらありえないもん(笑)。
平野さん:そうなんよ(笑)。
福永:これこそインターネッツの面白さ! 改めて見返しても、いい意味で混沌としてるのよ。
わたしも作家として参加して思ったけど、あの時にしか書けなかったものだと思ってるし。
そして、やっぱり書き手は、締め切りがあることで救われる(笑)。
平野さん:そうそう。この混沌とした作品群が、1冊にまとまることでこんなにもリズミカルになるんだって思い知らされた。
ノージャンルだからこそ、面白いって思ったよ。
作品もどれも似てなくてさ、個性的で。それぞれの個が立ってるというか。
福永:ゆきちゃんはコロナ禍でも、仕事にそれほど大きな影響がなかったと聞いたんだけど、それでもこういう企画を立ち上げたのはどういう思いからだったの?
平野さん:もともと、作品づくりというより、こういう“場”づくりのほうが楽しいというか。
以前立ち上げた「10zine」のときもそうだったんだけど、企画を立ち上げて人に呼びかけて、誰かが参加してくれることに喜びを見出すみたいで。
その一連の企画が、わたしにとって作品のようなものという感じかなあ。
福永:なるほど。
平野さん:もともと自分の中に作品意欲がないというか。役目がないとつくれないタチというか。
でも、今回で少し変わったかもしれない。
作家さんの熱量を浴びてると、「えっ、なんだよ、もお〜!いいじゃん!」みたいな気持ちになった(笑)。
作品が届くたびに、誰よりもわたしが喜んでいたと思う。
そして、これまで作品づくりを避けてきたのは、自分の中の“自信のなさのあらわれ”だったのかもしれないなって。
今回みんなの作品をみたときに、やっぱりわたしも作品づくりがしたくなったんだ。
あとは、もともと知っている人とチームを組まなかったのも、
とにかく一人で立ち上げて、1対1でやりとりをしたかったから。
これは、単純にわたしのエゴです(笑)。
福永:はたから見てると、考えるより先に動いちゃってる感じはしたよ(笑)。
平野さん:わたしの性格として、参加者としてグループに入るのがちょっと苦手だったりするから(笑)、フラットな場所で、何かをつくったり、自分で考えたりする企画を生み出したかったんだよね。
いつかみんなで集まれる日がきたら、顔を合わせて、直接本を手渡しして。
「あの作品があなただったの?」「あの作品、わたしのなんです!」
作家さん同士で、そんな会話が生まれるような、わくわくする場をつくれたらって思ってる。
「SOMEDAY Magagine」はオンラインの発行は完了しましたが、
今後の状況に応じて冊子として印刷をする準備をすすめているそうです!
またこれから先、自由に各地を動き回れるようになった頃には
作家同士が直接交流できる場もつくりたいとのこと。
作家のひとりとして、またこのギャラリー雑誌のファンとしても。
いつか、みんなで会える日を願っています。
人に会えないことや、様々な芸術や文化の催事に参加できないことがどういうことか、この期間に思い知らされました。そんな中でも、作品作りと発表の場を通して
「まだやれることがある、面白くできる」そんな気持ちを共有できれば幸いです。(Sometimes…webサイトより)
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