「乾杯はとりあえずビールで!」
そんな生易しい会話なんか聞こえてきません。
「乾杯はとりあえず焼酎で!」
そう、ここは芋焼酎の大国、鹿児島県。
日をまたぐ時間帯に居酒屋に入ろうものなら、みんな友達、いや、みんな親戚くらいの勢いで見ず知らずのお客さんたちに絡まれます。
最初は戸惑う観光客も、いつの間にか一緒になって盛り上がり、気がつけば焼酎の一升瓶が空いている…ここは、そんなお酒が繋ぐ温かい絆のまち。
なんですが。
私はもっぱら一人宅飲み派です。
お気に入りの焼酎を買ってきて、ボトルが空いたらまた買ってきて一人で飲むという、地味な愉しみ方を続けています。
だってその方が、惚れ込んだお気に入りの味わいを思う存分楽しめるじゃないですか。
10年間。
10年間ですよ。そんなにも長い間、一度も浮気せず惚れ続けているお気に入りの焼酎があるんです。
北薩摩にそびえる霊峰紫尾山の麓。
創業109年目の小さな酒蔵がつくる、知る人ぞ知る銘酒“紫尾の露”。
初めて出会った時、一口飲んだ瞬間の感動を未だに覚えています。
ガツンと来ない。
やさしい、柔らかい、温かい。
そんな言葉が似合うお酒です。
華やかというよりは素朴。繊細というより包容力。
「お酒なのに、なんで人格みたいなものを感じるんだろう?」
10年前、“紫尾の露”を初めて飲んだあの日。
私はそんなことを考えながら、なぜか普段はろくに話もしない両親の顔が頭に浮かんで、こっそり涙をこらえていました。
10年間、嬉しい時も悲しい時も、私の心を癒してくれた“紫尾の露”。
他にも美味しい焼酎はたくさんあるでしょう。心を癒す選択肢も、お酒以外にもたくさんある。
でも、なぜだかわからないけど、この焼酎は私の心を掴んで離さない。
その柔らかな味わいに浸っている間だけは、過去のいつにだって戻っていける。
記憶と時間を巻き戻す存在、それが私の心を鷲掴みにした焼酎“紫尾の露”です。
ぜひ、おつまみは用意しないでください。ただぼーっと、夜空を見上げながら、懐かしい思い出に浸る時間の片隅に置いてほしいと思います。
忙しい世の中ですから、たまには立ち止まる時間があっても良いじゃないですか。
“紫尾の露”を片手に、その包容力に包まれてみませんか。
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