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[大分] 私を狂わせた店 映画館リベルテ

[大分] 私を狂わせた店 映画館リベルテ

憧れの画家を辿って再会した故郷日田の映画館。

私が映画館『リベルテ』の存在を改めて知ったのは

熊本にある憧れのセレクトショップで開催されていた

画家の山口一郎さんの個展がきっかけだった。

 

その個展のテーマは“花”で、

画家の息づかいを感じる筆致と

可愛らしくも静かな力強さを感じる花の絵に

すっかり魅了されてしまった。

残念ながら山口さん本人とはお会いできなかったものの

私は鮮やかな緑色の花の絵を、家に迎えることにした。

 

そんなわけで山口一郎さんのことを

もっと知りたくなって調べていると

ほんの数ヵ月前に開催されていたらしい

“動物”をテーマとした個展の情報をみつけた。

 

ハッシュタグには“日田”の文字。

 

自分の目を疑うかのように画面に引き込まれたが、

どうみても個展の会場となっているのは、

私の生まれ故郷である大分県日田市である。

 

人口6万人のちいさな街。

高校生の原付バイク保有率がズバ抜けて高い

緑にあふれた盆地である。

 

映画館『リベルテ』、確かに幼い頃映画を観に行った覚えがあるが

過去に訪れた記憶をたどってみるものの

当時の記憶と今の雰囲気がなかなか繋がらない。

ヤキモキした私は

 

これは何としてでも一度訪ねてみなければ!

 

と、次の帰省のタイミングで『リベルテ』へ行くことを決めた。

 

『リベルテ』はボーリング場に併設されている。フランス語で“自由”を意味する『LIBERTE』のロゴは原さんの“じゆうなえいがかん”に、という願いが込められている

映画館へと続く階段。シンとしたこの階段を登りながら、映画のことを考えたり、今日はどんなことに出会えるだろうかとワクワクする時間がたまらなく好きだ

 

 

実家に帰省し、家族が早めの夕飯の支度をしながら

「小ネギがない」というので

 

ネギ買ってくるよ。

 

と言って家を出た私。

そしてすぐさま地元で高校の教師をしている友人に

『リベルテ』に行きたいから一緒に珈琲を飲もう

と声をかけた。

 

「原さんには学校で講演をしてもらったことも

あるんだよ」と友人。

 

映画館のオーナーなのに講演?

と不思議に思いつつ

その扉を開けると、

運よくオーナーの原茂樹さんに

お会いすることができた。

 

聞けば原さんは2009年、

閉館の危機をさらされていたこの場所を

前オーナーから引き継ぎ、

『リベルテ』を立ち上げたのだという。

 

現在『リベルテ』では、

映画の上映でだけではなく、

注目のアーティストによるライブやトークショーなど

イベントも盛んに行われている。

 

近年は『LIBERTE LABEL』と冠した自主レーベルを立上げ、

音楽家の青木隼人さんが作曲、

作家の石田千さんがタイトルを付けた

CDアルバム『日田』をリリース。

初版は即完売となるなど、

原さんに共鳴するアーティストたちとの活動は勢いを増すばかりだ。

その魅力は一体どこから来るのだろうか。

 

青木隼人さんが『リベルテ』の館内で1曲1曲録音したCDアルバム「日田」。『LIBERTE LABEL』を立ち上げ、リリースされた記念すべき第1作目だ(写真は瞬く間にsoud outとなった幻の初版)

 

 

予定調和的な未来ではなく、本気で生きたい。

学生時代はスポーツに熱中していたという原さん。

学業もそれなりに努力をしてきたため

周囲と同じように大学へ進学するつもりだった。

けれども、その先に待つ予定調和的な未来に対して

拭いきれない違和感があったとか。

 

10代の頃から音楽や映画が好きだったこともあり

大手レンタルショップでアルバイトをしながら

仲間とともにバンドを組み音楽活動を開始。

そこで映画に一層のめり込み、

好きだった音楽の世界に本気で打ち込むことで

原さんの世界観は加速度的に広がりを見せる。

 

映画館の待合室となるカフェに並ぶ音楽たちは、原さんがバンド活動に力を注いでいた当時から、今も変わらず繋がりのあるレーベルのものばかりだという

右上の「日田」の文字が躍るCDアルバムが現在のジャケットデザイン。題字と絵は、画家の牧野伊三夫さんによるもの

 

 

大切にしているのは、1対1で向き合う時間。

「映画を仕事にすると決めた日から、

バンド活動は行っていませんが、

僕の元へと尋ねて来てくれる人たちとは、

本気で向き合い、同じ時間をともにするという意味では

常に“セッション”をしている感覚です。

11で向き合う時間の積み重ねをとても大切に想っています」

 

と自身の日々を振り返る原さん。

 

今では全国からわざわざ日田へ足を運ぶ人も多いのだとか。

全国の若手アーティストたちの登竜門的存在として

『リベルテ』の名前を聞くことも少なくない。

 

「そんな風に地元以外の方から

言ってもらえることはとても嬉しい反面、

地元の人にこそ活動を理解してもらいたい、

というのが僕らの本音でもあります。

どんな人でも、どんな時でも

僕が大切にしているのは

映画を通じて繋がる人々との時間の積み重ねに過ぎません」。

 

「最近は『いわさきちひろ美術館』の方から商品を取り扱ってほしい、と連絡をもらって。いわさきちひろさんは昔から大好きだったのでとてもうれしかったですね」と語る原さんの顔にこの上なく幸せそうな笑顔がこぼれた

 

「ここに並んでいる作品は、本も音楽も器もすべて

僕とリアルに繋がっている人たちが

この場所に想いを寄せてくれるがゆえに

自然と集まってきたものばかりです。

僕にとっては、この人たちのためならひと肌脱ぐよ!

と本気で思えるくらい“家族”同然なんです」。

そう語る原さんの視線の先には、

アーティストたちが作品を飛び出して

『リベルテ』の壁に描いた

子どものようにのびやかで

自由な筆致のドローイングがあった。

 

画家の牧野伊三夫さんによる個展の際の1枚。右上には、「以前から互いに応援し合ってきた」という友人の絵本作家ミロコマチコさんのドローイングが光る

牧野さんの作品と牧野さんによる壁面ドローイング。アーティストの感性と『リベルテ』と言う空間が融合していることが垣間見える。牧野さんと原さんは日田の林業を守る『ヤブクグリ』の活動も行っていて、牧野さんのことを兄のように慕っているそうだ

 

 

コンセプトは“じゆうなえいがかん”

「憧れの方が『リベルテ』に来てくれることも

もちろんうれしいけれど、

不登校だった子がここで働くようになって、

とびきりの笑顔を見せてくれるようになったり、

スタッフの子が憧れていたフランスへ実際に留学して

イキイキと自分の人生を生きている様子を見ると、

この仕事をやっていて心底よかったなぁって思います」。

 

“じゆうなえいがかん”をコンセプトにした

映画館『リベルテ』は、大人も子どもも関係なく、

自由な感性が行き交う場所となっている。

 

 

私が知っている地元の映画館と、

今の『リベルテ』がなかなか結びつかなかったのは、

原さんや原さんを慕う人々によって

『リベルテ』の空気感が

すっかり塗り替えていたからかもしれない。

 

「映画って結局“人”を描いているもの。

そういう意味ではすごく身近なもので、

“井戸端会議”だってもはや映画なんですよ。

 

物事をとらえる視点や判断基準を

どこに置くかということを、

映画を観ることで一人ひとりが

自分の心に問いかけてくれたらいいなって。

これこそ僕が映画を発信し続ける理由です」。

 

 

映画の受け付けもカフェのオーダーもこのカウンターで。ところ狭しと並ぶパンフやアーティストゆかりの品々は、足を運ぶたびに発見のある宝の山だ

 

 

心を映す、神社のような存在でありたい。

原さんに日田の街で好きな場所は? と尋ねると

間髪入れずに「三隈川と大原神社! 」と答えてくれた。

 

三隈川が美しいのは当たり前じゃないし、

そこに誰か人の手が必ず介在しているから。

そこで川のために動ける人に原さんは共感するそうだ。

 

そして大原神社の澄みきった境内を

訪れるたびに思うことがあるという。

「鍵もかけず、

いつでも誰に対しても開放されていて

特別な教えも無い空間なのに、

常にきれいに保たれている。

人を信頼することが大切だということを

教えてくれるという意味で

神社のような存在でありたいなと思います」

 

そう語る原さんは、続ける。

 

「神社の本堂の中には何があると思いますか?

実はあの中には鏡があるんです。

静かに佇む鏡のように、常に人の心を映し、

問いかける場でありたいですね」。

 

そんな確固たる思いを軸に、

原さんがキュレ―ションを務めた

日田市所蔵展「ぼくらの美術館」が

日田市複合文化施設『AOSE』にて

6/27(木)~8/25(日)までで開催されている。

 

「日田市の所蔵物ということは、

日田に住む“ぼくらの”貴重な財産です。

日田にはそれを常設できる美術館が残念ながらありませんが

将来、美術館ができたらいいなぁという思いで

展示内容を考えました。

夏休みの時期、『AOSE』を訪れる人々や子どもたちに

観てもらえたらうれしいですね」。

 

日田市所蔵展「ぼくらの美術館」は、日田市複合文化施設『AOSE』にて。6/27(木)~8/25(日)までで開催中。※入場無料

明日から開催されるという展示会場でのひとコマ。会場では今回の企画展にちなんで原さんがリベルテスタッフと手掛けた映像も流れている。BGMには青木隼人さんの「日田」が心地よく鳴り響く

 

高校時代、故郷のひなびた書店で

雑誌『relax』のページを開き、

 

私はこんな雑誌を作る人になりたい…!

 

と衝撃を受けたあの日から

随分と時間が経ってしまったけれど

日々映画を発信し続ける原さんの想いや新旧の映画、

『リベルテ』を通じて繋がった人々のこと、

敬愛する雑誌『relax』や『暮しの手帖』のこと

 

時間を忘れて夢中で話を聞いていると

過去の自分と今がひと続きに感じられる

『リベルテ』という場所は、

私にとって御守りのような存在だ。

 

映画や音楽、カルチャーの海にどっぷり浸っていると

時間の感覚がすっかり狂ってしまって

気づいたら何時間も経っていた。

 

ほんのついさっき来たばかりのようだけど

 

と自分に都合のよい言い訳をしながら

うつわやCD、本などリベルテの“旬”に触発されては

ついつい普段より財布の紐もゆるんでしまう。

 

そうしてたった今買ったばかりの真新しい音楽を旅の友に

家までの小気味良いドライブに興じるのだった。

 

家族に言付かった小ネギの存在を

忘れていたわけではないのだけれど。

 

 

日田市複合文化施設AOSE

住所

大分県日田市上城内町2番6号(日田市複合文化施設内)

TEL

0973-22-6868(直通)

ホームページ

http://www.city.hita.oita.jp/shisetsu/riyou/kouminkan/6745.html

この記事のライター

中城 明日香

熊本市在住のフリー編集者・ライター。大分県山の中育ち。6歳と2歳の姉妹の育児は、月月火水木金金の勢いでほぼワンオペ。夫の職業は“理系。”とだけ答える無頓着さで、仕事と子育て、家事全般を白目を剝いてこなす日々。  毎週録画している番組は「渡辺篤史の建物探訪」、「今夜くらべてみました」、「ボクらの時代」。取材も「いつ始まっていつ終わったのかわからない」と称される“ボクらの時代スタイル”でやってます。

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